UPA2012 参加報告2 (聴講内容)
参加報告1から間が空きましたが、聴講内容についてご紹介したいと思います。
今回は、イベントテーマである "Leadership"(リーダーシップ) に沿ったセッションを中心にご紹介します。
Opening Speech
Ronald E. Riggio 氏 (Kravis Leadership Institute) は心理学者で、リーダーシップに関する多数の書籍を執筆しています。UPA2012 のオープニングとして、「Myths and Truths About Leadership and Developing Your Personal Leadership(リーダーシップと個人リーダーシップ開発についての神話と真実)」とのタイトルで(トークショーのように楽しめる)スピーチがありました。例えば冒頭の質問で「リーダーは生まれつき?」に対して、「Yes? だったら僕の話はこれで終了!」と「ご清聴ありがとうございました」と書かれたスライドが表示され、爆笑と共に、聴衆の関心を「リーダーは養成することができる」ことに集中させていました。
前半は、5つの神話が質問形式で提示され、回答と解説がありました。
1. リーダーは生まれつきか? 後から作られるものか?
⇒ 後から作られる
2. リーダーシップとマネジメントは根本的に違うものか?
⇒ 違わない (マネジャーは物事を正しく行い、リーダーは正しい事を行う)
3. リーダーが導き、フォロワーが追従すると言うのは本当か?
⇒ 違う (リーダーとフォロワーが一緒になり、リーダーシップを創り出す)
4. 男性と女性、どちらがうまくリードできる?
⇒ 女性 (女性は、関係構築能力に優れ、倫理的なリーダーシップに関心を払い、より高い教育に参加する傾向にある)
5. ほとんどのリーダーシップ開発プログラムは役に立たない?
⇒ 役に立つ (キーは、開発意欲と投資した時間)
後半は、「リーダーシップを開発する」と題し、良いリーダーになるための3つのステップが示されました。
ステップ1: リードし、開発しようという意欲を持つ
⇒ リーダーシップ開発はハードワークである
ステップ2: 変化するためのリーダーシップを発揮する
⇒ 鼓舞する。前向きな役割設定。繋がり、コミュニケートする。挑戦する。
ステップ3: 自分個人のリーダーシップを開発する
⇒ 何を開発したいか自覚する。明確で測定可能なゴールを設定する。自分に合った方法を選ぶ。
最後に、
「リーダーシップは複雑だが、成果を出す組織には不可欠なもの。
リーダーシップは開発できる。リーダーシップ開発の長い旅に出よう!」
との言葉で締めくくられました。
「リーダーシップ」はUXとどのように関連するか、ちょっと分かりづらいテーマではありますが、UX専門家は単に専門知識・スキルを持つだけでなく、組織の中でリーダーシップを発揮すべき役割を担っていると考えさせられました。
Riggio氏のプレゼン資料は、以下のURLで公開されています。
http://www.slideshare.net/UXPA/leader-myths-truths-2012-june-1-version
Riggio氏がスピーチ概要を説明したビデオも公開されています。
http://www.youtube.com/watch?v=cv749A5dmGM
[Workshop]「Developing a UX Lead Program」(UX Lead プログラムを開発する) Craig Peters 氏 (Awasu Design), Richard Charette 氏 (Wells Fargo)
lead は先に立って人を連れていく; guide は人に付きっきりで案内する; direct は道順・方向などを人に教える; conduct は人をある場所に連れていく (研究社 新英和中辞典より引用)
"Lead"の言葉が示す通り、「依頼者から言われたことだけに対応するのではなく、依頼者の真意をとらえ、UXの専門家として何ができるか考え、提案し、プロジェクトをリードする(導く)」との教えとその実現方法が話されました。セッション冒頭で行われた参加者の自己紹介によれば、大半が組織内のUX部門に属しており、組織的なUX実践に苦労して取組んでいる様子をうかがい知ることができました。
UX Lead プログラム: キーとなるUXチームメンバーがプロジェクトをリードするためのツール、期待、あり方
UXを企業の戦略的位置づけにするためのコアとなるアプローチ:
・パートナー関係をファシリテートする(円滑にする)
・UX専門家の日々の実務と効率を改善する
UX Lead プログラムの基本要素:
・UCDツールキット
・UXブリーフ(プロジェクト概要、アプローチ、UCDプラン、リソース、仮定とリスク)
・パンフ(UXに関する活動を1枚に簡潔に整理したもの)
・UX Leadガイド、チェックリスト
・トレーニング
・継続的なシステム
UX Lead プログラムの開発ステージ:
ステージ1(発見):ニーズを理解する。適切な人を巻き込む。インタビューで情報収集する。
ステージ2(計画):計画を立てる。
ステージ3(創造):解決策を創る。
ステージ4(繰返し):繰返しテストする。
ステージ5(リリース):リリース+トレーニング。
ステージ6(改善):フィードバックを得て、次期開発に繋げる。
誰がUX Leadになるべきか? ⇒ 組織次第(デザイナー、プロジェクトマネージャ...)
※UX Leadはファシリテーターと教育者としての側面も持つ。
Craig Peters 氏のプレゼン資料は、以下のURLで公開されています。
http://www.slideshare.net/craigpeters/developing-a-ux-lead-program
「Putting UX Design at the Core of Brand Building」(UXデザインをブランド構築のコアに据える) Stephen Gates 氏 (Starwood Hotels & Resorts Worldwide)
Gates氏は、ホテルのブランディングを担当するクリエイティブ・ディレクターです。大小幾多のブランド構築を手掛けている方が、UXデザインをコアに据えたブランド構築について、事例を交えながら教えてくださいました。UXデザインによりブランド構築に対してリーダーシップを発揮していると自分なりに解釈してご紹介いたします。
1. ブランド経済
偉大なブランドを構築するためには、消費者がどのように(複数の)ブランドの中から選択し、(長期)顧客化するかを理解しなければならない。商品は売って終わりではなく、購入後の体験を楽しんでもらうことで、その商品のファンとなってくれる。そのようなループを作らなければならない。
2. 何によって偉大なブランドになるのか?
・コアバリュー
・消費者のスイートスポット: スイートスポットはターゲットとする消費者によって決まる。⇒ ペルソナとして定義する。
・熱狂ポイント(デザイン、ファッション、音楽)
・差別化ポイント
・ビジュアル言語(単なるロゴではなく)
3. どこでインパクトを与えられるか?
・ブランドの印象は、「ブランド価値」と「消費者ニーズ」の相互作用により成り立つ。
・消費者の複数タッチポイントをマッピングする。
(ホテルの例:ブランドの気づき⇒旅行計画⇒予約⇒宿泊前⇒到着⇒チェックイン⇒ホテル内体験⇒チェックアウト⇒出発⇒宿泊後⇒ブランド構築)
・差別化のために、どのタイミングでブランドとしてコンタクトすればよいか検討する。
・3つのトリガー(感情、知性、経済)によりブランドが構築される。
4. どうやってデジタルブランディングに変換するか?
・オンライン上のすべてのインタラクションをブランド構築に利用する。
(UXデザインを通して、生活の中にブランドのコアポジショニングと価値を置く)
・ブランドの印象は、コアとなるブランド属性と見識(どのように伝わるか)により創りだす。
(ビジュアルデザイン、製造手法、テクノロジーなどではない)
・「ブランド中心の体験的コンテンツ」を「収入を生む取引コンテンツ」と結合させる
・ブランド中心コンテンツは、大きな写真やビデオなどで構成する。
・取引コンテンツは、入力フォームやドロップダウンメニューから成る。
事例: LEMERIDIEN MOODBOARD (www.lemeridien.com/moodboard)
5. ウェブサイトデザイン
事例: WESTIN SITE RE-DESIGN (www.westin.com)
・ホテルで体験できることをウェブサイト上で感じとれるようにした。
・サイト利用者の目的(「情報を探しに来た人」「ちょっとサイトに立ち寄った人」)などに合わせて、画面レイアウトやナビゲーションを設計した。
事例: W HOTELS SITE RE-DESIGN (www.whotels.com)
・ホテル関連のイベントなど、最新情報、直近情報などが分かるようにした。
・タスクの目的に合わせて、合理性と感情面のバランスを配慮したデザイン。
(予約画面は合理性重視の入力画面。ホテル情報は感情面重視で画像豊富に。)
6. オンライン広告
・オンライン広告には、素晴らしいUXが必要。
・コミュニティを創るつもりでインタラクティブな広告キャンペーンを行った。
・すべてのオンライン広告が売り上げに繋がる直接的な反応が必要なわけではない。
「Ask not what your chapter can do for you, but ask what you can do for your chapter!」 Lorie Whitaker 氏 (Tobii Eye Tracking), Brian Sullivan 氏 (Sabre), Chris Hass 氏 (Mad*Pow), Robert Skrobe 氏 (Slingshot, LLC), Cory Lebson 氏 (Lebsontech, LLC)
UXPA各支部の活動を活性化するために何ができるか、ワークショップ形式で話し合いました。「支部が何かしてくれることを待つのではなく、自分がメンバーとして何ができるのか考えましょう。」とのことで、過去に合ったアメリカ合衆国プレジデントのスピーチになぞらえたテーマ名になっていました。各支部のリーダー達と交流して得られたパワーで、日本におけるUXPAの活動も活性化して行きたいと思います。
今回は、リーダーシップ関連のセッションをご紹介しました。次回、その他に見聞きしてきたことをご紹介する予定です。